理事長ご挨拶

桐山 孝信

 2017年5月12日に西南学院大学において開催された世界法学会役員会で理事長に選出され、3年間理事長職を預からせていただくことになりました。

 世界法学会は1965年に発足した世界法研究会を前身とし、1976年に世界法学会に発展し今日に至っています。本学会の成立は、第二次世界大戦後の世界連邦建設の運動と大いに関係しており、世界法学会会則でも「本会は、世界法および世界連邦に関する諸問題の研究ならびにそれに関連する活動を行うことを目的とする。」(第3条)とされています。もっとも、世界法といい世界連邦といい、その概念はあいまいで研究者によって様々に捉えられていますし、他方でそれは間違いなく国際法研究と関係していますので、いい意味で幅広い研究者の結集を得ることができていると思います。

 また、多くの学会員がその学問的本拠としている国際法そのものが、この半世紀を経て大きく変貌していることも間違いはありません。国家間関係を規律するという基本軸にもかかわらず、人権問題や環境問題など、非国家主体への着目や主権国家を超えたところに利害を有する問題などを取り扱わざるを得ない国際法の状況は、世界法への接近というふうにいうことができるかもしれません。今日では、Global Lawという用語もしばしば見かけることがありますが、その意味では世界法研究は先駆的な試みであったともいえましょう。

 しかし、核戦争による地球の破滅をいかに防ぐかといった点に、世界国家成立のアクチュアリティを求めた初期の頃に対して、グローバル化の進展とそれに抵抗する反グローバル化運動、普遍主義と地域主義の対立、「テロ」活動の規制と人権保護の相克などをどのように捉え、今後の世界秩序を構想していくのか、世界法研究も、より複雑多岐にわたる課題を抱え込んでいるといえるでしょう。このような時こそ、研究者が英知を結集してより良い世界の実現に向けて努力する必要があるのではないでしょうか。現にある法を正確に捉えるだけでなく、あるべき法にも積極果敢にチャレンジしていくことが、世界法学会の活動を面目躍如たらしめることになるでしょう。

 顧みれば、私は、2014年11月に、理事長職半ばにして無念にも病いに斃れられた田中則夫先生、田中先生を引継いで学会運営を司ってこられた薬師寺公夫先生の下で、庶務主任を仰せつかっておりました。自らの浅学非才を省み、忸怩たる思いがありますが、引き続き学会運営に携わるというメリットを生かして、全力で職務に邁進する所存ですので、皆様のご支援、ご協力のほどよろしくお願いします。