理事長の挨拶

薬師寺 公夫

 2014年11月12日に大変残念なことですが、田中則夫前理事長がご逝去されたため、異例ではありますが全理事の投票と役員会でのご承認により、田中前理事長の残任期間、世界法学会理事長のお役目を引受けさせていただくことになりました。思い半ばで病に倒れられた田中前理事長に謹んで哀悼の意を表しますとともに、前理事長の遺志を受け継いで世界法学会の運営に微力ですが全力を尽くして参りたいと存じます。同志社大学で開催されました2015年度研究大会の総会でご挨拶させていただきましたように、昨年の運営委員会で選任いただきました桐山孝信庶務主任、村上正直会計主任、植木俊哉企画主任、小畑郁編集主任、位田隆一監事、古賀衛監事ならびに運営委員会、企画委員会、編集委員会ならびに事務局の各委員の皆様には、当初予定された通り2017年5月開催予定の研究大会までその任務を継続していただくことになりました。どうかよろしくお願い申し上げます。

 世界法学会の歴史は、1965年の世界法研究会の発足に始まります。第2次世界大戦の惨禍及び核兵器の使用が人類にもたらした多大な犠牲を教訓として、戦争をなくすためには国家主権を見直し、より高次の世界政府又は世界連邦をめざすことが必要だという運動が戦後高揚し、同年、世界連邦運動の理論的基礎を探求することを目的として世界法研究会が発足いたしました。その11年後の1976年に、世界法研究会は世界法学会に改組され、年1回の研究大会(当初は年2回の年もありました)とともに、1986年からは当初のニューズレターを発展させた「世界年報」を刊行するようになり、学会運営のための組織も次第に整備されて、今日を迎えております。2015年は世界法研究会発足50周年、来年は世界法学会改組40周年を迎える年にあたります。

 1980年代末から1990年代にかけて東西冷戦構造が崩壊し、この間に急展開したグローバリゼーションと呼ばれる現象は、情報、人、サービス、資金の国際移動を飛躍的に高め、国際社会における国家以外のアクターの活動の場を増大させるとともに、他方で主権国家の役割を相対的に低下させています。しかし、グローバリゼーションは、同時に、1国では処理することのできない多くの問題をも生じさせるようになりました。地球温暖化に典型的に見られる地球環境問題、国際社会を脅かす自然災害や疫病問題、富の偏在と絶対的な貧困問題、人権の重大な侵害や不処罰の問題、国際の平和と安全に対するさまざまの脅威など、国際社会の諸アクターが協力して取り組まなければならない課題も山積しているように思われます。したがって、国際法だけでなく世界法をも視野に入れて幅広く国際社会における法の課題を検討の対象とする世界法学会が果たすべき役割もますます大きくなっていくものと思われます。

 歴代の学会理事長及び運営委員、各委員会の委員、事務局の皆様のご努力で、学会組織の基盤が強化され,研究大会や世界法年報さらにさまざまの運営面での改革がなされてきました。その成果の上に立って、引き続き、会員の皆様にとって意義のある世界法学会となるよう努力してまいる所存です。会員の皆様におかれましても忌憚のないご意見・ご要望をお寄せいただきますようお願い申し上げます。今後とも、会員の皆様のご支援とご協力をお願い申し上げる次第です。